医学書を勧める人間(の一部)の困った特徴として、「本そのものの経験値」にしか基づかないお勧めの仕方をする人がいる。
確かに自分の経験は何物にも代えがたい。だが、その一方で経験を神聖視して、ジェネレーションギャップや教育齟齬を生んでいる事実から目をそらしてはならない。
本項では、医学書をベースとして、私が毛嫌いしている医学書の勧め方について、実際の本を交えつつお話ししていく。
なお、ここで取り上げる各書籍に罪はなく、あくまで6tree個人の私見をもって記載している点はご留意いただきたい。
2023.02.20 初版
未だに『救急外来 ただいま診断中!』を勧める人は多い。
本書そのものは非常に良くできているものなのだが、この本が出たのは「2015年」である。もう8年ほど前である。その間に診療が本当に変わっていないのだろうか?
たとえば、めまいの診療において古典的4分類に従い「性状」を聞くことが今でも多いようだが、実際の患者が「性状」をちゃんと表現できるとは限らない。めまいは2015年あたりに出た下記TiTrATEのようなアプローチによって、かなりフローチャートが変化した。
Newman-Toker DE, Edlow JA. TiTrATE: A Novel Approach to Diagnosing Acute Dizziness and Vertigo. Neurol Clin. 2015 Aug;33(3):577–99.
しかし、そういった情報は2015年に出版された上記本に載っているわけがない。
だからこそ、エビデンスベースの読み物は、ちゃんと更新すべきであり、それを把握せずに本書を薦めるのはあまりにも相手に対して失礼だと言える。
私はそれゆえに坂本先生の本としては、(単著ではないが)『救急外来, ここだけの話』を推奨している。(2024年1月現在)