事前確率を意識しろ、とか、問診が8割だ、とか、私もそういうことを言いがちな人間の一人だが、いかんせん「手の抜き方」についてちゃんと解説しているものが存在していないため、「私のやり方」をここに記載する。
私はそんなに「特別なこと」ができるわけではないし、それでも仕事がそれなりにできるようになりたい人向けである。
まず、Settingは意識しなくてはならない。つまり、貴方は今どういう場にいるのか?ということだ。
これらは、患者状況を示すもの、というよりは、自らの立場のリソースがどの程度なのか?というところを意味する。
walk-inで来たから軽症とは限らない。walk-inの壊死寸前の胆嚢炎も、正常血糖ケトアシドーシスも存在する。
救急外来だとバイタルは看護師が全てちゃんととって、トリアージしてくれることが多いが、一般内科外来だとバイタルが十全にとられていないことなんてよくあることである(特にSpO2)。例えば呼吸困難なのに、SpO2や呼吸数に関する事前情報がない、なんてことがあり得るわけだ(これは問診票が医師の手に渡るまでに看護師などの医療スタッフが関わらないと起こりやすい)。主訴みた瞬間にここは反応できないとマズいわけである。
また、検査ファーストにならざるを得ない状況なのか、それとも問診・身体診察ののちに検査で十分余裕があるのか、というのは、Situation寄りけりだし、そもそも診療所レベルだとやれる検査の限界もあるわけで、その辺を「自らのリソース」として考える必要がある。
他にも、病床状況(そもそも個室隔離しないといけないのに、個室が空いていないなど)やスタッフの人数(特に看護師)、現在対応している患者の重症度などを考慮することも重要で、特に転院搬送する確率が高い症例は、その前後で一人以上の医者が取られて他の対応が困難になるため(というか、患者的にもできるだけ早く高次医療機関に行くのが望ましいため)、応需することが望ましくないと思っている。
こういう話をすると、極端な話だと救急外来は「全て」オーバートリアージを許容すべきなのか?という話になりえる。
これに対しては私は異を唱える立場である。
オーバートリアージを全例やっていると、全ての検査に対してAssessmentを要求され、「検査したのに所見を見落とす系」の見逃しが絶対に発生する。
じゃあ、どうやってそぎ落とすのか?という話だが、私は結局「どうして病院に来ることになったのか?」だと思っている。これは個人の解釈や社会的理由だけでなく、患者の身体の中で起きている「病態」も含めてのことである。
こういうのをBPSモデル(Biological-Psychological-Social)で解釈することを言う人もいるだろうが、私は内科医としてあまり推奨しない。
BPSモデルは「結果」でしかなく、思考手順にそぐわない、という認識である。また内科的問題(Biologicalな問題)の解決がひとまず求められることが多く、この3つを均等に思考することがない。その一方で、BPSのいずれかに偏ることもよくない。
仮想症例を提示する。
例えば、血圧が高くて夜間救急外来にwalk-in受診した75歳女性。
そもそも血圧が高いことで他に症状が生じているのか?そもそも血圧が高いのはいつから?そもそもなぜ夜間に受診したのか?などなど、問いたいことがいくつかある。
で、これをアトランダムに聞いたところで、自分の中で見落としが生じるだけなので、あまり好きじゃない。
ここでは、上記を踏まえた「私のやり方」を提示する。繰り返しになるが「最低限でありながら、ある程度見逃しを減らす」やり方でしかないので、決してFullのやり方ではない。
患者を診る上で、基本的にどういう経過で自分のところに来たのかを、常にグラフでイメージする癖をつけている。
こんな単調なグラフにはならないのだが、青のグラフをちゃんとイメージできているか?それをカルテの病歴記述にちゃんと反映できているか?という点はかなり留意している。
具体的に一つ一つ診ていこう。
まずは、症状のOnset。絶対に押さえないといけない要点はこの2つ。
基本的にOnsetの状況は、明確に区別すべきで、これが病態理解への第一歩となる。
これらの鑑別における留意点は以下の通り。
最初にOnsetを確認したら、次はそれが「本当のOnset」なのかを確認する必要がある。
特に、救急隊からの連絡で、最初に伝えられた「Onset」が実は「しつこく聞く」と違うこともかなり多い。(これは地域の質にもよるだろう)
この辺で、過去カルテや診療情報提供書などがあれば、必ず比較しながら問診を行う(つまり、問診の前に過去の記録は漁っておくべき)。
発症した症状が、どのような経過で来ているか?を確認する。
ここまで症状の経過を聞いて来たが、今この患者は病院にいる(もしくは来ようとしている)。