※本内容は、私6treeが研修医向け院内レクチャー用(←ただし供養することになった)に記述した資料であり、私見が多分に交じっている内容である。


はじめに

医師国家試験は必要な情報が必要なだけ揃っている。

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でも、実際には不要な情報も雑多に混じっている状況である。

その中で情報を整理してまとめるにはどうすればよいか?つまり、「カルテとしてどのような形で残していけば良いか」について記載していく。

なお、「カルテの書き方」は一通りではなく、多様な書き方がある。特に総合診療系と内科系で分化している印象がある。その中で、良い落とし所だと思われる内容を私見としてまとめていく。

強調しておくが、これは症例報告などの情報が整理されたまとめではなく、情報を整理するための記録=カルテの書き方のお話である。

参考文献

伝わるカルテ【電子版】 | 医書.jp

「型」が身につくカルテの書き方【電子版】 | 医書.jp

ケア移行実践ガイド【電子版】 | 医書.jp

症候から入る小児の身体診察【電子版】 | 医書.jp


カルテにおける略語表記

以上の要素を踏まえた上で、表記手法を選択するのが望ましい。

なお、病名の英字略語については各科にまたがる可能性についても考慮するのが望ましい。

例を以下に表記する。

SOAP形式とBy Problem/System

現在のカルテの主流は、俗に言われるSOAP形式での記載となる。

SOAPとは、Subjective data, Objective data, Assessment, Planの4つの頭文字を取ったものである。

カルテとして記載する事項をこの4項目に分けることで視認性を確保する名目がある。

Subjective data, Objective dataは事実寄りの事柄、Assessment, Planは解釈寄りの事柄を記載するものであり、純粋な事実や解釈を記載するのは難しいが、その在り方を意識して記載するのが望ましい。

また、一般および救急外来や、一般病棟ではProblem Oriented Medical Record(POMR)での記載となる。つまり、各問題点に主軸を置いた記載(By Problem Medical Record)だと言える。

一方、集中治療(High Care Unitなど)では、By System Medical Recordが望ましい。これは病態が時間単位で急激に進行しうるため、問題点ごとの整理ではなく、臓器ごとに状態を整理し、フォローしていくことを目的としている(なお、本項ではBy System Medical Recordの詳細については割愛する)。

Problem Listの記載方法

#は「ナンバー」である。シャープではない。

#+数字により重要度順にナンバリングを行い、疾患について表記していくのが基本である。

#1 高血圧症 #2 脂質異常症

しかし、ナンバリングが難しい状況、疾患表記が難しい段階も存在する。

そのため、重要度的表記が難しい(定義しない)ことによる「数字の省略」や、非確定問題や現在進行形の問題を表記するための「#+英小文字」表記(仮Problem表記)も存在する。

#a 呼吸困難 #b 嘔気・嘔吐

咳嗽

呼吸困難

発熱

慢性心不全

高血圧症

糖尿病

慢性腎臓病

要素が確定した時点で、「→# 疾患」などの表記を追記する。

また段階に応じてProblem Listを整理するのが望ましい。

#a 呼吸困難→#1 市中肺炎 #b 嘔気・嘔吐→#1に統合

#a 市中肺炎  #a-1 呼吸困難  #a-2 嘔気・嘔吐

たとえば、肺炎など一過性のProblemについて、数字表記するか英小文字表記するかは、前者が多いと思われる。ただ、個人的には治療後のフォローしなくて済む疾患と治療開始後もフォローし続ける疾患の区別のために、カルテ上は一過性の疾患は英小文字表記を採用している(上記例の後者)。まあ、英小文字表記は総合診療寄りの思想から生まれている印象で、内科寄りの思想ではほとんど使われていない印象である。

非疾患的問題をProblem Listに入れるかどうか問題はあるが、治療を完遂して退院を目指す上ではある程度入れることが望ましいと思われる。総合診療科的にはBPSモデル等の考え方が定着しつつあり、Socialも含めて表記する傾向がある。

科によってProblem Listの優先順位が変わるわけで、List順は科により異なるのは必然である。新規Problemは重要度順ではなく、時系列順になりがちであり、それは必要悪である。整理する場合は、必ずサマリーを記載するのが望ましい。

Problem Listの記載場所については、Subjective dataの前、もしくはAssessmentの前であり、流派が分かれるところだが、個人的には前者である。

また、Problem Listに端的なサマリーを付記することも一つの手である。大雑把な経過を示すことで閲覧者に理解してもらいやすくなるのが良いところである。下記は一例。

#1 微小変化型ネフローゼ症候群(再発3回目)  2012年8月腎生検にて診断。初回mPSL 500mg/day 3days以後PSL漸減。2012年9月よりCyA(シクロスポリン)併用。2014年7月寛解。  2016年9月再発、PSL 30mg/dayで寛解導入。以後漸減。  2018年9月PSL 5mg漸減時に再発、PSL 20mg/dayで寛解導入し、2020年10月にdrop out。  2022年9月に再発し、入院加療でmPSL 500mg/day 3days, PSL 40mg/day 4weeksののち、PSL 30mg/dayで2022年10月に退院し、以後CyA再開および漸減予定。

#2 高血圧症  Tx) エナラプリル5mg1T1x  シックデイでは中止した。 #3 脂質異常症  上述#1に伴うLDL-C高値。  Tx) アトルバスタチン10mg1T1x

Subjective dataを整理する

Subjective dataとして記載すべき内容は以下の通りである。

これらの内容のポイントを以下にまとめていく。

Opening Statement/ Brief Summary

最初にこの患者の背景情報について、記載する。

項目としては、以下の通りである。

プレゼンテーションをする上では、このまとめをすることで焦点が明確化するため、非常に分かりやすい。

しかしながら、この手法は、背景情報が多くなったときに、(意図しない)「切り抜き」が生じてしまう。Subjective dataの要素は「事実>>解釈」であるべきであり、それは望ましいことではないと思われる。

そのため、私自身はこの部分にProblem List(疾患・病態・問題になり得る背景情報)を記載することで、先入観が減らすことを心がけている。まあ背景疾患がProblemなのかどうか、は人によって解釈が異なる点は押さえておくべきだと思う。

主訴

主に患者が訴える「一番困っている症状」であるが、疾患のメインの症状とは限らない点が厄介な点である。

例えば、体重減少と言われて、リウマチ性多発筋痛症を思い浮かべるのは容易ではない。しかし、よくよく話を整理して、両肩痛にフォーカスを当てればリウマチ性多発筋痛症を鑑別に挙げるのは容易だろう。

主訴に対する焦点の当て方を間違えると、思考の迷路に迷うことになる。それを踏まえると、まず「一番困っている症状」に焦点を当てることになるのだが、Assessmentする際に必ず存在する症状を問題点として書き出しておくことが重要である(詳細は後述)。

また、患者が「症状」を表現できない可能性もある。典型的なのが「めまい」や「ふらつき」、「脱力」といった要素であり、その辺も含めて、問診で特定し状況に応じて修正するのが望ましい。

なお、もう少し踏み込むと、患者の訴える言葉を適切な医学用語に置き換えること(Semantic qualifierへの置換)、疾患特異性の高い情報(high yieldな情報)かどうか、について判断できるとより望ましい。ただし、置き換えることにより情報が削除される面もあるため、カルテ記載時点でどの程度医学用語に置き換えるかは、各人によって意見が分かれる。

現病歴

病歴記載で重要なのは、「発症から受診までの流れを『絶対値』にて時系列順に記載すること」と「主語は患者」である。

発症時期を特定すること=症状が存在しなかった時期を特定することは、Onsetを推定する上で極めて重要である。その後、時系列順にどういう症状がどういう風に出現してきたのか、その流れを捉えることは、病状の変化を捉えることにつながる。

なお、時系列を明らかにする上でカルテ記載としては、時系列は2020年4月などと「絶対値」で記載する。3年前などと相対値で記載すると、カルテをコピペされたときに本来示したい時期とずれることがあるため、どうしても相対値を示したい場合は、絶対値に対して付記するのが望ましい。

記載する上で「患者本人からみてどういう情報なのか?」という視点でまとめるのが望ましいため、「主語は患者」である。患者以外が認知・判断をした場合は、主語を省略してはならない。患者が気づいていないが家族が気づいた場合、自覚症状の有無についての言及になるため、非常に重要な要素である。

また現病歴に付随する情報も、この部分に補記するのが望ましい。具体的には以下の情報である。

症状詳記については、本文書では割愛する(別文書を参照)。

「患者が受診するきっかけ」を特定し記載することは、患者の「一番困っていること」を特定することにもつながる(方針決定に寄与するポイントである)。

Narrative(解釈、期待、感情、影響)と記載することもあるが、単純に「受診のきっかけ」で片付けた方が分かりやすいため、上記記載としている。

既往歴、内服薬

既往歴や内服薬は患者背景を示す大事な要素である。

既往歴を記載する上では、年齢(or時期:年月での記載)と病気、その簡易サマリーを記載するのが望ましい。

虫垂炎(20xx年 Ope)

高血圧症(20xx年指摘、以後内服加療)

肺癌(53歳診断、small, StageⅣ, chemo実施中)

また既往歴がない=病院に全く受診していない可能性があり、見つかっていなかった疾患を偶然見つける可能性を考慮することになる。もちろん最後の健診結果についても大事である。

併存症と既往症を分けることは、私はあまり必要ないと感じる。結局、今も治療しているかは上記のような付記する情報で明らかであり、既往症と併存症の区別ゆえの見落としの方が良くないイメージ。

内服薬は、直近の変化も含めて確認するのが望ましい。特に薬剤性に起因する症状を捉える上で重要な要素である。

内服量まで記載するのが望ましいが、時間の都合上省略することもあり得る。

なお、記載方法も様々あり、どこまで厳格に記載すべきかは状況に応じて判断するのが望ましい。

6tree流カルテの書き方