研修医の最初の段階でたくさんの本を買うのは、非常に難しい。給与面でも本を選択する指標面でも。そういったためらいに対する回答例として、本文書を捧げる。
今回の改訂で意識したのは、どのように臨床を意識するか?である。流派の違いはあれど、それでもなお意識したい共通項を「内科医」らしく述べる内容とした。そして無駄な言葉を減らした。
なお、個人的には、現場での横断検索を推奨しているため、電子書籍での購入を推奨する。詳細については別記事を参照。
『当直ハンドブック2025』
まず、救急外来や当直での対応マニュアルとして、本書を推奨する。
本書はあくまでマニュアルである。最低限必要な内容が端的に書かれているのは利点である。
ただし、その内容がいかにエビデンスに添っているかは、仕事をしながら、学びながら理解していくのが望ましい。ここから紹介するどんな書籍でも言えることだが、そのエビデンスはいつの?今も適用できるの?というところは常々追う必要がある。
とはいえ、仕事を「ある程度できる」必要がある以上は、こういったマニュアルは重宝する。その前提として本書を最初の推奨とする。
なお、基本的にそのときの最新版を買うだけで十分であり、年次型出版の本は毎年更新するために買う必要性は乏しい。毎年更新と言っても、ちゃんと全分野が更新されているとは限らないことは留意が必要である。
『総合内科流 一歩上を行くための内科病棟診療の極意』
総合内科流 一歩上を行くための内科病棟診療の極意【電子版】 | 医書.jp
以前なら赤本(『総合内科病棟マニュアル 病棟業務の基礎』)で提示していたが、こちらの方がコンパクトにまとまっており、病棟診療の全体像をつかむのに適している。また「当たり前にやっているけど言語化されていない要素」が一つ一つ言語化されているのも特徴で、それがやり過ぎと思える面もなくはないが、指標として提示するにはちょうど良い本である。病棟現場の雰囲気をつかむ第一歩として、この本を通読すると良いと考える。
『研修医のための内科診療ことはじめ 救急・病棟リファレンス』
研修医のための内科診療ことはじめ 救急・病棟リファレンス【電子版】 | 医書.jp
内科診療の「な」の字も分からない段階から、研修医生活は始まる。そんな中で最初に購入して欲しい本が本書である。
脳神経内科の杉田先生が一人で執筆した本であり、内科診療をやる上で大きく変わらないであろうポイントを抽出した本である。まあ、著者については「医學事始」のブログで知っている人もいるだろう。
内科的基礎事項が非常によくまとまっていて、何らかのイベントに直面したらまず本書を読むくらいの使い方をするのが望ましいが、一人執筆ゆえに分野ごとの解像度の違いは顕著に表れている印象である。とはいえ、ひとまずおさえるべき基本内容を網羅している点で、推奨とする。
※なお、補足編で強く推奨している同著者の『レジデントのための神経診療』は参考文献も充実していて非常に良い本であるが、「最初」に推奨するには「脳神経内科」に寄りすぎている。まあ、脳疾患の当直をどこまで診る病院(地域)か、にも寄るところである。
『ホスピタリストのための内科診療フローチャート』
ホスピタリストのための内科診療フローチャート 第3版【電子版】 | 医書.jp
内科J-Oslerの登場もあり、エビデンスをちゃんと記載することが求められる際によく役立つと言われている。しかし、エビデンスはどんどん更新されるものであり、時間差で発売される書籍という存在とは相性が悪いとしか言い様がない。一方で、こういったまとめは雑に全体像を把握するのに役立ち、またその参考文献を調べることは最新のエビデンスを調べるきっかけになるため、「最初に用意する」本として推奨することとした。
『内科レジデントの鉄則 第4版』
はっきり言うと、私はこのシリーズが大っ嫌いである。指導医や先輩が使っている(or見ることを推奨している)から使っている人間が多すぎると思っている。
いわゆる「聖路加式の総合内科」的なやり方をどこまで自分の職場で求められるか?が重要であり、総合内科よりは縦割り内科ベースだとあまり役立たない要素も強いだろう。
(私は口酸っぱく公言しているのだが)本書はあくまで聖路加の仕組みを反映している本であり、それを分かった上で使うのが望ましい、ということである。
今回第4版の改訂で、項目の追加(頭痛、尿路感染、髄膜炎、消化管出血、関節痛・関節炎、甲状腺、血算、便秘・下痢など)と、従来項目の内容の更新があり、それに加えてレイアウトもかなり見やすくなった。特にQ&Aの流れと鉄則の強調のバランスが良くなり、見やすさがかなり向上したと思う。論拠となるエビデンスの記載も分かりやすくなっており、書籍としての価値はかなり向上したと言える。
いずれの本でも言えることだが、できるだけ最新の本が望ましい。よく病院に古い本(古い版の本)が置かれているだろうが、古い本は間違っていることも多いため、その前提で見るのが望ましい。